こちらは、カミュ物理学者とミロ医学者の故国、阿蘭陀国の王宮です。 この時代、よおろっぱ随一の繁栄を誇る阿蘭陀国の立派なお城の窓から、広がる青空を眺めては溜め息をつき、溜め息をついては空を眺めている王子様の姿がありました。 「さきほどから、何をそわそわしているのだ、ジークフリートよ」 そんな王子様の落ち着かない態度を訝ったのは、阿蘭陀国の最高権力者ヒルダ女王です。 「は、いえ、つい先刻、日本国に研修旅行に出ているカミュとミロから伝書鳩がまいりまして」 阿蘭陀国は、後世、女王の国として名を馳せ、幾人もの個性的な女王様を輩出することになるのですが、その先駆けとなったのが、このヒルダ女王。 その威厳と迫力たるや、ハンパなものではありません。 ジークフリート王子も、ヒルダ女王の前では、緊張して小さく丸くなっていることしかできませんでした。 「ふん? で、あの者らは何と?」 「はっ。何でも、日本国の超金持ちの姫君を見つけたとか」 「ほう。あの極東のちっぽけな島国の姫君とな。それでは、金持ちと言っても、たかが知れているのではないか?」 ヒルダ女王が、ジークフリート王子の言葉を、フン☆ と鼻で笑ってみせます。 滅多にないことなのですが、ジークフリート王子は、そんなヒルダ女王に食い下がりました。 「いや、それが本当に超金持ちらしく、接待費が底を尽きかけていると、ミロが泣きついてまいりました。しかも、金持ちなだけでなく、超可愛子ちゃんだとか……むにゃむにゃ……」 この女性上位の王室に生まれ育ったからこそ、ジークフリート王子は、可憐で控えめなお姫様に憧れていたのです。 ですが、ヒルダ女王には、ジークフリート王子のそんな心がわかりません。 なにより、ヒルダ女王の胸中には、既に目星をつけたジークフリート王子の花嫁候補の姿があったのです。 「しかし、その娘、はたして、我が国屈指の金持ち貴族の令嬢・カシオス姫より金持ちであろうかの」 「それはもう、日本と言ったら、別名、黄金の国ジパング、道路に黄金が敷きつめられているという噂の国です。カシオス姫の100倍も金持ちなのに決まっています!」 「ふん。いずれにしても、金なら、我が王室にはありあまっておるわ。大事なのは、腰じゃ、腰! すぐにでも次期女王をはらめるほどの腰つきの姫君なら誰でもよい! 今のところ、わらわの見立てでは、カシオス姫ほどたくましい腰つきの姫君はおらぬがの」 「〜〜〜っっ !!!! 」 ここは、『そんなたくましい姫君と結婚なんかしてたまるかーっっ !! 』と叫びたいところなのですが、ヒルダ女王を怖れているジークフリート王子には、とてもそんなことは言えません。 ジークフリート王子は、目許口許を微妙に引きつらせ、ただただ沈黙するばかりです。 「ともかく、阿蘭陀国の王子が、いつまでもいい歳して嫁の一人ももらえないでいるのは、我が王室の恥じゃ。いつまでもゼータクぶっこいているなよ、ジークフリート」 「それはもちろんでございます、母君〜」 威厳まみれのヒルダ女王の前で、ジークフリート王子は、ひたすら平身低頭するしかありませんでした。 |