「おーれーのー小人たちを泣かしているのは、どーこーのーどーいーつーだ〜っっ !! 」


   地獄の底からよみがえる
   哀れの化身 銭の花
   闘え ぼくらの銭形氷河
   守れ 可愛い小人たち
   ショック ショック 4文ショック
   イカの中から 銭形氷河〜♪



――と、華麗なる(?)アイアン氷河のテーマソングに乗って登場した銭形氷河に、小人たちは大喜び!

他の船客たちは、柱の陰や救命ボートの陰に隠れて様子を窺い、カミュ物理学者とミロ医学者は、この得体の知れないイカの化け物に茫然自失です。

「氷河−っっ、やっぱり来てくれたんだねーっっ !! 」
「えーん、えーん、カラスミーっっ !! 」
「長崎ちゃんぽんーっっ!」
「ここ、どこなのーっっ !? 」

イカくさいイカの化け物を恐れる様子もなく、小人たちは、わらわらわらと銭形氷河によじのぼっていきました。

「おまえたち……捜したんだぞ……」
「氷河―っっ! 僕たち、知らないうちに長崎にいたのーっっ!」
「トルコライス食べたのー」
「かすていらも食べたのー」
「皿うどんも食べたのー」
「なのに、カラスミがないって言うのー」
「長崎ちゃんぽんもないって言うのー」

「あーん、あーん、あーん !! 」× 15

銭形氷河は、小人たちの涙には慣れています。
それはもちろん、銭形氷河が、女泣かせの罪な奴――もとい、小人泣かせの罪な奴だから――ではなく、小人たちの感受性が豊かで、感情表現が大らかだからなのですが、慣れていることと許せることは、全くの別物です。
銭形氷河には、小人たちを泣かせるものの存在を許すことができませんでした。

「ああ、泣くんじゃない。俺が来たからにはもう大丈夫だ。おまえたちを泣かせたのは、どこのどいつだ?」

「あのおじさんたちー!」× 15
トルコライスとかすていらと皿うどんをおごってもらった恩も忘れて、小人たちは揃って、カミュ物理学者とミロ医学者とを指差しました。

普段は温厚で控えめな銭形氷河も、小人たちをいじめる悪党には容赦という言葉を知りません。
「きーさーまーらーかー、俺の大事な小人たちを泣―かーせーてーくーれーたーのーはーっっ!! 」

地獄の底から這い出してきた悪魔のような声で、銭形氷河にご指名を受けたカミュ物理学者とミロ医学者は、たじたじです。
なにしろ、銭形氷河は全身にゲソを巻きつけて、頭からはワカメが垂れさがり、腕にはフジツボやイソギンチャクが貼り付いていたのです。
到底、普通の人間には見えませんでした。

「なななななんだっ、またしても科学で証明できない物体がっっ !! 」
「おなか生き生きビフィズス菌― !! 」

自分の理解の範疇を超えたものに出会うと、人は、まっとうな判断力を失います。
今のカミュ物理学者とミロ医学者がそうでした。
この異常事態にあわあわと慌ててしまったカミュ物理学者とミロ医学者は、その場から逃げ出すことにも思い至らず、ほとんど意味のないセリフを発することしかできなかったのです。

「問答無用 !! くらえ、銭形氷河最大の奥義、オーロラ・4文銭・アターック !! 」

小人たちの『あーんあーん』は、銭形氷河から完全に理性を奪い去っていました。
その攻撃が、いったいどういう結果を生むのかも考えず、銭形氷河は、彼の最大の奥義をブッ放してしまったのです!







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