「納得できーん! どーして、こんな普通サイズの人魚が、こんな小さな玉手箱の中から出てくるんだ! 物理学的に説明できないではな……えーい、そんなところに絡むなというに、このアホタコーっっ !! 」 カミュ物理学者は、相変わらずタコに好かれています。 「……解剖してみたい……。あのしっぽの中を見てみたい……」 クラゲに気に入られたミロ医学者は、学術的興味に捕らわれていました。 「まっ、なーに、この2人! このキュートな私を見て、言うことはそれだけなのっ !? 失礼しちゃうわ!」 ぴちぴちマーメイドのテティスは、そんな2人にぷんすかぷんです。 「わー、ぴちぴちキュートなおねーさ〜ん♪」 その点、9号はお利口でした。 9号は、カミュ物理学者やミロ医学者のようなヘマはしません。 「あら〜、可愛らしくて、見る目のある小人さんだこと。玉手箱を開けてくれたのは、あなたね〜?」 ぴちぴちマーメイドのテティスは、9号の言葉を聞いて、すぐに機嫌を直しました。 「はい、そうです。ラブリーセクシーなおねーさん」 「んふふ。ほんとに可愛いわね〜。見る目もあるし」 ぴちぴちマーメイドのテティスが、9号の言葉を聞いてにこにこしだしたのを見て、他の小人たちはすぐに、自分たちの為すべきことを悟りました。 15人の心はひとつなので、この場はぴちぴちマーメイドのテティスを褒めておいた方がいいということが以心伝心で伝わってきたのです。 「わー、人魚のおねーさん、ぴちぴちで綺麗〜!」 「ほんとだ、爽やか系で魅力的〜」 「こんなチャーミングな人魚のおねーさん、僕、初めて見ちゃった」 小人たちは、そもそも人魚を見るのが初めてでした。 「目が生き生きしてる〜!」 これは新鮮なお魚の見分け方です。 「まー、可愛いだけじゃなく、正直な小人さんたちねっ。じゃあ、可愛い小人さんたち、願い事を言ってちょうだい。ただし、3つまでよ」 「えっ? 願い事を叶えてくれるの、ぴちぴちギャルのおねーさん?」 やはり、ポセイドン・ジュリーのくれた玉手箱は、現状打破のための重要アイテムだったようです。 仲間たちを救い出す希望の光が見えてきたことに力づけられて、9号はぴちぴちマーメイドのテティスに尋ねました。 ぴちぴちマーメイドのテティスが、機嫌よさそうな顔をして、9号に頷きます。 「もちろんよ、それが私のお仕事だもの。えーと、ちなみに、浦島の太郎さんの時はね、1番目の願いが、『死なない身体になりたい』だったから、カメの化石にしてあげたの。そしたら、2番目に『死なない身体はやめて、若返りたい』って言ったから、赤ちゃんにしてあげたの。そして、3番目に『これじゃあ若すぎる。もっと歳をとりたい』って言うから、おじーさんにしてあげたの。我ながら完璧な仕事だったわー!」 今明かされる浦島太郎の悲劇の真相です。 浦島太郎の二の舞は、絶対に避けなければなりません。 9号は、思慮深げに考え込み始めました。 (……なるほど。つまり、願い事は慎重に選ばなきゃならないってことか。とすると、1番目は花のお江戸に帰る、2番目は大金持ちになる、3番目は……うーん、何にしようかな〜……) 3つしかない願い事を何にするのが一番お得なのか、9号は厳しい顔をして悩み始めたのですが、9号の仲間たちは、この状況をあまり深刻に受け止めてはいませんでした。 小人たちは、元気よく、そして即座に、 「カラスミー!」 「ちゃんぽんー !! 」 ――と、自分たちの正直な願い事を、ぴちぴちマーメイドのテティスに訴えたのです。 「はーい、願い事1番目のカラスミー。2番目のちゃんぽんー!」 「わーい !! 」× 14 「あっ、みんなのばかーっっ !! 」 突如響いた9号の悲鳴に、他の小人たちはびっくり。 「え? 9号ったら、食べないの?」 「た……食べるけどぉ〜」 それはもちろん食べますけど、大金持ちになるチャンスを逃してしまった9号が、かなり落胆したというのもまた、紛う方なき事実でした。 |