念願のちゃんぽんとカラスミに群がる小人たち。
そんな小人たちに任せていたのでは現状を打破することはできないと悟ったのは、カミュ物理学者とミロ医学者でした。

「……おい、じゃあ、3番目の願いは、『私たちを阿蘭陀に運ぶ』だ」
「いや、小人姫の呪いを解いて、『普通サイズの可愛子ちゃんにする』だろう」

「ふーんだ。私のこのキュートさがわからない人たちの願い事なんか聞いてあげたりしないわよ!」
けれど、2人の願い事を、ぴちぴちマーメイドのテティスはあっさり却下。

どう考えても、カミュ物理学者とミロ医学者は、最初の対応を間違えてしまったようでした。
何はともあれ、人間でも人魚でも、初対面の女性はとりあえず褒めておいた方がいいようです。


「最後のひとつ……。どーしたらいいんだろう……ぱくぱく」
落胆のカミュ物理学者とミロ医学者の横で、長崎ちゃんぽんに舌鼓を打ちながら、9号は慎重に考えていました。

方向音痴とはいえ、カメさんがいずれはどこか陸に着くことは確実です。
そうなった時に、お金持ちになってさえいれば、花のお江戸に帰ることはできるかもしれません。
けれど、万一、カメさんの到着した場所が、ペンギンさんしかいない南極大陸だったりしたら、お金持ちになっていたって、凍え死ぬばかり。
でも、確率的に言って、カメさんが南極大陸じゃないところに着く可能性の方が大きいような気もします。

9号は、ちゃんぽんの次にカラスミを食べながら、悩みまくっていました。
で、一応、参考にしようとして、銭形氷河にも尋ねてみたのです。
「氷河。氷河だったら、どんな願い事するの?」

「願い事? 俺は別に……。俺は、おまえたちがいつも元気で幸せでいてくれさえすれば、他はどうでもいいから……」

「氷河……ぱくぱ」
銭形氷河の言葉に感動して、9号はカラスミを食べるのを途中でやめました。

「氷河……ぱくぱ」× 14
他の小人たちも、9号に同上です。

銭形氷河の、控えめで清貧で欲のないその言葉が、9号に決断をさせました。
「よし、3番目の願い事、決めた!」

「まあ、決断が早いわね。見る目のある小人さんだし」
ぴちぴちマーメイドのテティスは、小人たちの褒め言葉がよほど嬉しかったようですね。


「ああ……。これは、やっぱり、『花のお江戸に帰る』になるんだろーか」
やっとタコを引き剥がすことのできたカミュ物理学者の声は、少し沈んでいました。

「しかし、そうすると、もう我々には帰りの旅費がないぞ」
「バイトして稼ぐしかないか」
「花のお江戸に永住するという手もあるな」
「うーむ……」
9号の3番目の願い事には、カミュ物理学者とミロ医学者の運命もかかっているのです。
カミュ物理学者とミロ医学者はそれきり黙り込んで、9号が3番目の願い事を発表する時を待つことになりました。

「9号……」× 14

小人たちはひとりで15人、15人でひとり。
その心は、いつもひとつです。
小人たちは、9号の願いが自分たちの願いでもあるということは信じていましたけれど、それが何なのかは、まだわかっていませんでした。







[次頁]