昔、とある国の子供の無いお后様が、 「雪のように白い肌と、血のように赤い頬と、黒檀のように黒い髪の姫が欲しい」 と神様に祈ったことがありました。 やがてそのお后様は身ごもって、一人の可愛らしい赤ちゃんを産んだのです。 が、多分、その赤ちゃんは、神様が授けてくれた赤ちゃんではなく、お后様と王様の努力のたまものだったのでしょう。 赤ちゃんは、時々ほんのり薔薇色に染まる頬と、柔らかな亜麻色の髪、そして、とても綺麗な緑色の瞳を持った、それはそれは可愛らしい――王子様でした。 さて、お后様はとても病弱な方でした。そこにもってきて、可愛らしい姫君を得るために、王様と頑張りすぎたせいもあって、赤ちゃんを産むと病の床に就いてしまったのです。 美しいお后様をとても愛していた王様は、そんなお后様を落胆させないために、生まれてきた赤ちゃんの頬を口紅でぐりぐりと赤く塗り、亜麻色の髪をビゲンヘアカラーで真っ黒に染め、あげくに姫君と偽って、お后様に見せたのです。 自分の産んだ我が子の目も当てられない容貌にびっくりしたお后様の心臓は、その衝撃に耐えられませんでした。 お后様は、 「せっかく授かった姫が、こんなおてもやんだなんて! こんな馬鹿げた顔をした女の子は、きっと一生お嫁にもいけないでしょう! コメディアンか漫才師になって、一生人に笑われて暮らすことになるんだわ!」 と嘆きながら、儚くなってしまわれたのです。 王様が、赤ちゃんが本当はとても可愛らしい王子様だということを正直に告げていたら、お后様はそんなことにはならなかったに違いありません。 運命とは、本当に残酷なものです。 深い愛情と思いやりが、時に残酷な結果をもたらすのですから。 ともあれ、そういうわけで、生まれたばかりの赤ちゃんは、生まれた途端に母なき子。 おまけに、とんでもない姿で、しかも姫君として育てられることになったのです。 かわいそうで可愛らしい王子様は、一見したところ唯一のとりえである白い肌から、白雪瞬ちゃんと呼ばれることになったのでした。 |