それから14年の年月が、平和に過ぎていきました。

しかし、14年目のある日、お后様は見てしまったのです。
宮殿のお庭を散歩していて雨に降られ、濡れねずみになって帰ってきた白雪瞬ちゃんの可愛らしい素顔を。

おてもやんな頬の口紅がとれ、つややかな亜麻色の髪に雨の雫をしたたらせている白雪瞬ちゃんの美しさといったら!
それはもう、奇跡としか言いようがありません。
それでなくても少々お歳を召して、容貌の衰えを自覚し始めていたお后様に、白雪瞬ちゃんの可憐さは残酷ですらありました。

しかも、白雪瞬ちゃんの美しさは、昨日今日授かったものではありません。
この容貌から察するに、7、8歳の頃にはもうとっくにお后様の美しさを凌駕していたに違いありません。

だと言うのに、あの鏡は!
今朝方も、例によって例のごとく、
「もちろん、それはお后様。あなたが世界でいちばん美しい」
と、お后様に告げたばかりだったのです。

今、お后様の目の前にいる白雪瞬ちゃんは、どう見ても、お后様の千倍も可憐です。
お后様の千倍も美しい。

お后様は、即座に、『魔法の鏡に信ずる値なし』と判断して、ご愛用の鏡を粉々に砕いてしまいました。
お后様は、鏡などよりも、自分の目をこそ信じることのできる、実に賢明なお后様だったのです。
まさに天晴れ! と申せましょう。



それから、賢明なお后様は、白雪瞬ちゃんに言いました。

「瞬ちゃん。あなたはとても優しい子で、私はあなたがとても好きだけど、あなたの美しさを知ってしまった今日からは、私はその美しさに嫉妬して、意地悪なお母様になってしまうかもしれません。だから、瞬ちゃん。このお城を出ていきなさい。このお城にいる限り、あなたはおてもやんなお姫様でいなければならないでしょう。それはあなたにとっても残念なことだし、おてもやんなあなたを愛してくれている国民を騙すことにもなるのだから」

「お母様……」

白雪瞬ちゃんは、賢明なお母様が大好きでした。
お母様はいつも美味しいケーキを白雪瞬ちゃんに食べさせてくれました。

その優しいお母様とお別れするなんて、白雪瞬ちゃんはとてもとても辛かったのです。
でも、白雪瞬ちゃんは、そのおてもやんな顔立ちへの同情もあって、これまで誰からも愛され、とても素直ないい子に育っていました。
賢明なお母様のご命令に背くことなどできるはずもありません。




そういう訳で、白雪瞬ちゃんは、泣く泣く生まれ育ったお城を後にすることになったのです。
ひとりぽっちの白雪瞬ちゃん。

白雪瞬ちゃんは悲しみを胸に抱きながら、深い森へと分け入っていきました。





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