これは多分、罰なのでしょう。
どんなに気持ち悪くても、そんなことをするくらいなら死んだ方がましだと思っても、氷河王子様には死ぬことは許されないのです。
白雪瞬ちゃんの涙を乾かすには、そうするしか方法はないのですから。
そうしなければ、きっと白雪瞬ちゃんは、悲しみのあまり死んでしまうでしょう。
小人さんたちの死をあっさり忘れて、自分だけ王子様と幸せになるような、ご都合主義的かつ童話的な心は、白雪瞬ちゃんにはないのです。
白雪瞬ちゃんは生きているのです。
白雪瞬ちゃんは、優しい心を、そして、おそらく、愚かでもある人間の心を持って生きているのですから。


氷河王子様は、覚悟を決めて、一輝二輝三輝四輝五輝六輝七輝の身体が収まっているガラスの棺の側に歩み寄っていきました。
決死の思いで棺の蓋を開け、そして、死んだつもりで、その行為に及ぼうとしたのです。


ところが。

「や…やめんか、貴様、気持ち悪い〜〜っっ !!!!!! 」 × 7

次の瞬間、氷河王子様は、棺から10メートルも離れたところに突き飛ばされていたのです。
氷河王子様を突き飛ばしたのは、グリム童話最大の奥義を食らって死んでいたはずの7人の小人さんたちでした。

あっけにとられている氷河王子様と白雪瞬ちゃんに向かって、小人さんたちは言いました。

「俺たちは、毒りんごなんぞ食っておらん! 誰が食うか、あんなもの!」

「俺はバナナが好きなんだ!」と一輝。
「俺はメロンが好きなんだ!」と二輝。
「俺はデコポンが好きなんだ!」と三輝。
「俺はラ・フランスが好きなんだ!」と四輝。
「俺は巨峰が好きなんだ!」と五輝。
「俺は天津甘栗が好きなんだ!」と六輝。
「バナナはおやつに入るんですかー」と七輝。


なんということでしょう。
小人さんたちは、グリム童話最大の奥義を見切って、車田マンガ最高の奥義『死んだふり』技を返していたのです。
幻魔拳しか技を持っていないと思われていた一輝二輝三輝四輝五輝六輝七輝は、実はこんなにも高度な技を体得していたのでした。


「小人さんたち !! 」

何が何だかわかりませんが、とにかく死んだと思っていた小人さんたちが生きていたのです。こんな嬉しいことはありません。
白雪瞬ちゃんは、小人さんたちの側に駆け寄って、一輝二輝三輝四輝五輝六輝七輝を抱きしめ、わんわん泣き出してしまったのでした。


男の子が泣いちゃダメだという法律はありません。
そして、人は、嬉しい時にも泣くものなのです。





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