「氷河……。星矢が来てくれたの。あの……ちょっとだけでも会ってあげて」 ドアを開けずに、ドアに向かって、瞬が低い声で囁くように、星矢の来訪を告げる。 そのドアの向こうに、氷河がいるらしい。 廊下に漂っている暗い空気を吹き飛ばしたくて、星矢は意識して大きな声を響かせた。 「ちょっとだけ? なに言ってんだよ、瞬。こっちは、半年分、話すことがたまってるぜ。おまえらが、どうしてたのかも聞きたいし、今夜は夜っぴいて、積もる話をしまくろーぜ! おい、氷河ー! 早く、顔を見せろよー!」 ドアの向こうにいる男は、しかし、何かをためらっているようだった。 かなりの間を置いてから、その部屋のドアが内側から開けられる。 氷河は曇りの入った眼鏡をかけていて、レンズ越しに星矢を一瞥すると、 「よく来たな。瞬の相手をしてやってくれ。寂しがっているだろうから」 とだけ告げて、すぐにドアを閉じようとした。 「氷河?」 星矢は、氷河のその様子に違和感を覚えたのである。 彼は、こんなに暗い雰囲気の男だったろうか。 全身に沈鬱な空気をまとって見えるのは、ほとんど黒に近いグレイの服のせいでもなければ、表情の見えない眼鏡のせいでもなさそうである。 氷河が閉じようとしたドアに手をかけて、星矢はまじまじと氷河を見やった。 「おい、氷河、おまえ、どうかしたのか?」 と尋ねた途端に、星矢は急に胸を刺すような痛みに襲われた。 胸を押さえ、低い呻き声を漏らす星矢を見て、氷河が乱暴にドアを閉じる。 「う……痛……。な…なんだ、これ……」 「星矢、大丈夫 !? 」 廊下の床に片膝をついた星矢の背に手を添えて、瞬がその顔を覗きこむ。 「あ……ああ。いや、氷河の眼を見た途端に、なんか、急に誰かに心臓を掴みあげられたみたいな気分になって……」 「ごめんなさい。氷河も……つい懐かしくて、じっと見ちゃったんだと思うから、許してあげて」 そう告げる瞬の目があまりに辛そうで、星矢は、懐かしがっているにしては、随分素っ気ない氷河の態度の訳を問い質すこともできなかった。 |