二人は本当に触れ合っていないのか。
こんなことが、触れ合わずに、相手の姿を見ずにできるものなのか。

あるいは、それが可能になるほどに――二人は、この洋館で毎夜、この言葉だけでの交わりを繰り返していたのか――。

星矢は混乱していた。



「中指も……動かすぞ」
「んっ……あ…ああ……」


だが、星矢は不思議に、瞬の指や手が、氷河の身体の代わりをしているのだとは考えなかった。
瞬がそんなことをするはずがない。
瞬は純粋に、氷河の言葉に愛撫されているのだと、なぜかそう思えた。


瞬の喘ぎ声は一層激しくなる。

星矢の心臓は、隣室に聞こえてしまうそうなほどに大きくなっていた。


「氷河……氷河……」


瞬が泣いている。

壁の向こうから、瞬が氷河の名を呼ぶ声と喘ぎ声しか聞こえてこなくなっても、今、瞬がどんなふうでいるのかが、星矢には手に取るようにわかった。
瞬が、何を求めているのかも――薄々わかった。

そんなふうな目で瞬を見たことなど、無論、星矢はこれまで一度もなかったのである。
だが、星矢は、今、自分が瞬を組み敷いているような錯覚を覚えて――ひどく戸惑っていた。



「もう少し我慢していろ。今、俺をやるから」

「いや……また、痛い…んでしょ……。いや、このままでいい……」 
「おまえはいつまで経ってもそんなふうだな」
「だって、僕は……僕は、あの時しか知らないんだもの…っ!」

「瞬……」

氷河の声がまた沈みこむ。


「いいの、あの時と同じでいい。痛くてもいい。あの時みたいにして……!」
「……そうするつもりだ。瞬、脚を……」
「そんなの、氷河がとっくに……ああ、もう氷河のものだから、だから……早く……」
「入れるぞ」

氷河がそう言い終わるより早く、瞬の声は、喘ぎよりもっとはっきりした響きをもったものに変化した。
「ああああ……っ!」

瞬の荒い息づかいまでが、空気を伝って届いてくる。
星矢は、今度こそ、本当に耳をふさいだ。

ふさいだつもりだった。


「もっと奥で……動かすぞ」
「いや…! そんなの無理……」
「無理じゃなかったろう」

「あ……あ、んっ……」


耳をふさいでも、瞬の間断ない喘ぎ声は壁一枚の障壁を通して聞こえてくる。
瞬は、もう、意味のある言葉を口にしてはいなかった。
くぐもった、押し殺したような息と、喉の奥から漏れる音。
それが、いつまでも繰り返し繰り返し、古い洋館の中に響いている。



やがて、瞬がひときわ高い声をあげて、その行為の終わりを氷河と星矢に告げた。


そして――。

その後に聞こえてきたのは、まるで自分を憐れむような、瞬のか細いすすり泣きだった。






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