「氷河、聞いてるのかっ! 氷河、ここを開けろ!」 星矢は、氷河が閉じこもっている部屋のドアを殴りつけるように、幾度も叩いていた。 扉に弾き返された声が、長い廊下にこだまする。 「馬鹿野郎! 俺たちがこれまで勝ち続けてこれたのは俺たちの力だ! おまえの眼のせいなんかじゃねーぞっっ! うぬぼれんなっ!」 小宇宙を燃やせば、すぐにでも破壊してしまえるただの木製の扉に、星矢は繰り返し拳を叩きつけていた。 それで氷河を外に引きずり出すことができたとしても――氷河が自分の意思で出てくるのでなければ――何の解決にもならないのだということが、星矢にはわかっていた。 星矢の怒声が途切れると、扉の向こうから、氷河の力ない声が聞こえてくる。 「瞬が……俺のせいで日毎に弱っていくんだ」 「そんなの、ただの恋わずらいだっ!」 星矢は、言下に言い切った。 星矢は、あんな瞬を見てはいられなかったのである。 瞬は、誰よりも幸せになっていいはずの人間だった。 闘いの中で殺伐としていた仲間たちの気持ちを、瞬はその笑顔と思い遣りとで、いつも癒してくれた。 瞬がいなかったら、これまでの闘いを闘い抜いてこれたはずがないと、星矢は思っていた。 たとえ生き残ることができていたとしても、瞬なしでの勝利が後に残したものは、擦り切れた心だけだったろう――と。 「だとしても、瞬が……。……可能性があるのなら避けたいんだ。瞬が俺のせいで死ぬようなことだけは……」 それは、氷河も同じだったろう。 闘いの中で大切な者たちを失い続けてきた氷河には、特にそうだったのだろう。 だから氷河は、瞬を好きにならずにいられなかったに違いない。 その瞬の命を危うくするようなことを避けようとする氷河の気持ちは、星矢とてわからないわけではなかった。 だが、夕べのような瞬を、星矢はどうしても認められなかったのだ。 |