「瞬が不幸なのは、今おまえが瞬を見てないからだろっ! おまえが、自分の不幸しか見てないからだ!」 「俺は……」 あんな瞬は瞬ではないと、星矢は思った。 瞬をあんなふうにした氷河が、星矢は許せなかったのである。 「人間なんてなぁ、みんな誰かを不幸にして生きてるんだよ! 自分が意図しなくても、誰だってそうなんだよ! 実際、俺たちはたくさんの人間を殺してきた……!」 それでも、瞬がいてくれたから、信頼しあえる仲間たちがいてくれたから、星矢は、絶望してしまうことなく、今日まで生きてこれたのだ。 「ただそこに生きてるだけで、人を不幸にすることだってある。存在そのものが邪魔だったり、妬みを買ったりすることだってあるさ! おまえみたいに幸せな奴にはわからないかもしれないがな、俺と姉さんが親に捨てられたのは、ただ存在するだけで俺たちが親を不幸にしたからだ。俺たちが邪魔で迷惑だったからだ……!」 「――星矢」 「でも、だからって、消えてなくなるわけにはいかないだろっ! もしかしたら、俺たちだって、いつか誰かを幸せにできることがあるかもしれないんだからっ!」 そう思えればこそ、人は生きていられるのである。 思えない人間には、確かに、生きていく力は持ち得ないものだろう。 氷河からは、その力が失われかけているのかもしれなかった。 「俺にはそんな日は来ない。俺は不幸にするだけだ。瞬を殺すだけだ……」 「違うだろ! 瞬はおまえのせいで死んだって、自分を不幸だなんて思う奴じゃない。瞬が死んで不幸になるのはおまえ自身だろ! おまえは、自分が不幸になりたくないから、そうやって駄々をこねてるだけなんだよ!」 星矢が、それでもわからないのなら、このまま死んでしまえと言わんばかりに必死な声で、堅く閉ざされたドアの向こうにいる男を怒鳴りつける。 だが、扉の向こうから答えはなかった。 代わりに、星矢のすぐ後ろから、小さな声が星矢の肩を優しく撫でた。 「星矢……」 瞬が、なぜか微笑しながら――泣きそうな目で微笑しながら――そこに立っていた。 「……いいの。星矢、ごめん。僕が馬鹿だった」 「瞬?」 「僕こそ気付いてなかった。そうだね、僕が死んだら、氷河が不幸になるんだよね。だったら、僕は我慢する。これまでだって我慢できたんだもの、これからだって大丈夫だよ」 「瞬……」 そこにいるのは、昨夜、星矢の心と身体を乱した、星矢の見知らぬ瞬ではなく、 「僕は――僕こそが、自分の不幸にしか目を向けていなかったんだ」 星矢がよく知っている、強くて優しい仲間の一人だった。 |