――『瞬は綺麗だった。天使のように』 氷河の言葉が、瞬の脳裏に蘇ってくる。 「天使みたいに綺麗だったんだって! 瞬は天使みたいに綺麗だったんだってさ!」 氷河の制止を振り切って飛び出した早朝の街には、人影一つなかった。 まるで、街中の人々がシュンの悲しみに遠慮して、家に引きこもってしまったかのように、通りは静まりかえっていた。 軽蔑するような口調で氷河の言葉を繰り返し、それから、シュンはあまりの惨めさに、自分の二つの拳を握りしめた。 「僕は天使なのに、綺麗じゃない……!」 美しい心を持った人間が、美しい心を持っていない者を、どれほど惨めな気持ちにするものか。 「天使なのに人を堕落させようとしてて、天使なのに人を憎んでて、天使なのに……」 天使なのに、嫉妬している――。 瞬に嫉妬しているのだ。 天使のように綺麗だった瞬。 死んでなお、あれほどまでに氷河に愛されている瞬。 そして、天使なのに罪の色に手を染めている自分と、 瞬を装っていないと、氷河に抱きしめてもらうことすらできない自分。 「僕だって……あんなことされたの初めてだったのに…!」 氷河が心配したのはシュンではなく瞬だった。 それが悲しいからなのか悔しいからなのか、シュンは、自分の涙を止めることができなかった。 (瞬が人間なのに天使でいられたのは、瞬が氷河に愛されていたからだよ! もし瞬が自分の愛してる人に愛されてなかったら、瞬だって悪魔になってたはずなんだ! 僕みたいに!) 「瞬なんか嫌いだ! 大っ嫌い!」 瞬の愛した氷河を早く堕落させなければならない――。 それが、シュンが瞬に勝利するただ一つの方法だった。 |