氷河が、そんな瞬と話をする機会に恵まれたのは、瞬がとあるファッション雑誌の写真撮影のために郊外に遠出をした、ある冬の日のことだった。

寒風吹きすさぶ中で野外撮影をしている瞬を、ヒーターの効いた車の中から見ているのも気がひけて、氷河は車外に出て遠目に瞬の様子を眺めていた。
そこに、とことこと瞬が近付いてきて、
「僕たちの方にいらっしゃいません? 暖かいコーヒーがありますよ」
と、氷河に声をかけてきたのである。

スーパーアイドルの思いがけないお誘いに、氷河が戸惑っていると、
「お仕事なんでしょうけど、あんまり根を詰めると、お身体を壊してしまいますよ」
と、氷河は逆に瞬に気遣われてしまったのである。

「俺は……君のスキャンダルを取ってこいと言われて、君につきまとっているスッポンだぞ」
自分がその場にいる上手い言い訳も思いつかなくて、氷河は、つい本当のことをぽろりと瞬に言ってしまった。

氷河の物言いがおかしかったのか、瞬がくすくすと喉の奥で笑う。
「それで、あなたのお仕事が一段落するのなら、誰かと密会でもしてみせてあげたいんですが……。そんなのありませんよ。僕、朝から晩まで仕事しかしてないもの」

「多分、そうなんだろうなー……とは思っていた……」

氷河が肩をすくめてぼやくと、瞬は今度は楽しそうに笑い声を響かせた。




それから、瞬は、スッポンのなりそこないを見かけるたび、
「ご苦労様です」
と、氷河に声をかけてくれるようになったのである。





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