瞬は、見るたびいつもにこにこ笑っていた。 泣いている顔も、怒っている顔も、疲れた様子をさえ、氷河は一度も見ることはなかった。 カメラやファンの前でだけ、というわけではない。 スタッフの前でも、噂の長髪敏腕マネージャーと打ち合わせをしている時でも、コンサートホールやテレビ局の控え室、自分の事務所の内にいる時でさえ、瞬が笑顔を絶やすことはなかった。 ――という事実を知ることができたのは、つまり、氷河がすっかり瞬と懇意になってしまったからだった。氷河は、瞬の行くところ全ての場所にお出入り自由のパスポートを手に入れてしまったのである。 人によっては、氷河を瞬の新しい付き人と思い込んでいる節もあり、 「あの鬼マネージャーが、よく瞬ちゃんに付き人なんてつける気になったもんだ」 と、感心したように言われたこともあった。 当の鬼マネージャー――紫龍という名の、氷河と同年代の男だった――は、 「貴様のような目立つ見てくれの男に、ゴシップ探しなんぞ命じる編集部の気が知れん。おかげで瞬がスッポンの存在に気付いて、変に心配するようになってしまった」 と、ぶつぶつ文句を言い、 対する“気の知れない”編集部の長は、 「おまえ、城戸瞬とすっかりオトモダチになっちまったそうじゃないか。快挙だぞ、氷河! 素人は、素人なりのアプローチ方法を思いつくもんだな! 城戸瞬のオトモダチとはね! 玄人には思いつかんやり方だ」 と、勝手に誤解してご満悦状態。 どうやら瞬は、以前から氷河の存在に気付いていたらしく、自分の過酷な労働状況を棚にあげて、ずっとその身を心配していたらしかった。 コンサートホールやテレビ局の駐車場で、寒そうにしているゴシップ雑誌記者の姿を見、風邪をひきはしないかと案じているくらいなら、暖房の効いた自分の控え室で待っていてくれた方がずっとマシだと、瞬は考えたらしい。 紫龍はそれをあまり快く思っていないらしく、まるで嫌がらせのように、氷河を瞬の付き人扱いし始め、何かれと雑用を命じるようになった。 もちろん、ノーギャラである。 しかし、そのために、氷河には、自分に向けられる瞬の笑顔と謝意という報酬が支払われることになった。 そして、その報酬は、氷河には、1年分のシベリア滞在費用より価値のあるものに思われたのである。 瞬はいつも氷河に優しく接してくれた。 氷河の目的を知ってるはずなのに、敵愾心の感じられない笑顔を投げかけてくれた。 瞬がそんなふうでいられるのは、探られて困るようなスキャンダルが瞬にはないからなのだろう――そう思えることが、氷河の心を安んじさせてもくれたのである。 |