自分の返答に一向に納得してくれない氷河に根負けしたかのように瞬が話し出したのは、新しいアルバムの発売に合わせて企画されたコンサートを終えた瞬が事務所に戻り、一息ついたある夜のことだった。 老若男女を問わないファン層を持っている瞬のコンサートは、それなりに盛り上がりはしても、そこには節度というものが自然に生まれ存在するのが常だったのだが――なにしろ、客席には、小学生の孫を連れた若いおじーちゃん・おばーちゃんという客もいるのだ――その日のコンサートは妙に学生が多くて、コンサート終盤、熱気に当てられて昂奮したらしい若い男が瞬をステージから引きずり下ろそうとする場面があったのである。 警備員になど頼っていられないとばかりの氷河と紫龍に、その暴走男はすぐ取り押さえられたのだが、氷河と紫龍に一発ずつ殴られて正気を取り戻したその男は、 「すみませんっ !! 瞬ちゃんがあんまり可愛いんで、家に連れて帰りたくなったんです…! お願いです、親と大学には、内密にしてくださいっっ !! 」 と、泣きながら、幾度も床に額をこすりつけてきた。 『あんまり可愛い』で家に持って帰られてたまるかと憤り、氷河は、もう2、3回その学生を蹴倒してやろうとしたのだが、それを止めたのはアンコール曲を歌い終えて袖に戻ってきた瞬本人だった。 瞬は、平身低頭している錯乱男を助け起こし、あまつさえ、『ラストを見れなかったお詫びに』とサインまで与えて、名も問わずに帰してしまったのである。 その手ぬるい処置に、氷河は、コンサート終了からずっと不機嫌の極みだったのだ。 「そんなに怒らないで、氷河。僕は結局、怪我一つしてないんですから」 その氷河をなだめるように、深夜の事務所の応接室で、瞬は話し出した。 |