暴走学生のことは忘れるにしても、である。


人が誰かの力になりたいと思い、実際にそうすることができるのは素晴らしいことだとは、氷河とて思う。

氷河自身はこれまで、そんな考えを抱いたことはなかった。
自分で自分の面倒をみきれていれば、他人に頼る必要はない――と氷河自身は思い、現実にそういうふうに生きてきた。誰かに頼ったこともなければ、頼られたこともなかった。
だから、瞬の考え方は――ある意味、それは非常に古典的な考え方ではあるのだが――氷河には、新鮮にさえ感じられた。

しかし――誰かのために生きていたいという考え方は立派だが、それには自ずから限度というものがあってしかるべきなのではないだろうか。
瞬のように、誰かの力になるために、我と我が身を削るような生活を送る必要がどこにあるのだろう。

そんなことが、なぜ瞬にはできるのか。
この細い身体のどこから、そんな力が湧いてくるのか。
それが氷河には理解できなかった。


氷河は、もう少し――もう少しだけ、時間的にも肉体的にもゆとりのある日々を瞬に送ってほしかった。
でないと、やがて瞬は壊れてしまうのではないかと――氷河は、心配でならなかったのだ。





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