人事部長が、噂の新任常務を案内してきたのは、その日の午後のことだった。
ディーリングルームでのチェックを終えて出てきたところで、氷河は子連れの人事部長に声をかけられた。

「あ、霧谷部長!」

氷河は、そして、人事部長の横に、まるで『パパの仕事場拝見』に来た小学生のように控えている瞬の姿を見い出したのだった。

「…………」

瞬が、視界に氷河を映し、瞳を見開いている。
まさか、昨夜氷河の言っていた“お飾りにするしかない常務”というのが自分自身だとは、瞬は思ってもいなかったのだろう。

「こ…こんにちは……。よ…よろしくお願いします…」
罪悪感と困惑を瞳に乗せて、瞬がぺこりと頭をさげる。

氷河は――グラード・ファイナンシャル・プランニング社財務部長は――返す言葉もなかった。





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