「そりゃ、氷河、おまえ……」
雪と氷の聖闘士の不器用さに、星矢が呆れたような顔になる。
“細かいところにこだわらない大らかさ”が売りの星矢にも、氷河の“慰め”が些細なミスでないことくらいは、考えるまでもなくわかったのである。

「俺のやり方がまずかったのはわかってる。同じヘマはもうしない」
星矢の口から今更聞くまでもない批評・批判が飛び出てくる前にそう言って、氷河は、星矢の続く言葉を封じた。

「そーいや、おまえ、ガキん頃、泣いてる瞬を慰めようとして、クワガタかなんかを瞬の手に握らせて、かえって瞬を大泣きさせたことがあったな……」
言おうとしていたセリフを封じられた星矢の口から代わりに出てきた言葉は、しかし、今回の“慰め”批判と大して変わらない代物だった。

思い出したくないことを思い出させられて、氷河が思いきり顔を歪める。
が、星矢の言ったことは事実以外の何物でもなかったので、氷河には彼を殴り倒すこともできなかった。



そうなのである。
一事が万事。
すべてがその調子――だった。

氷河が瞬のために何かするたびに、瞬は傷付いた顔になり、そして、涙を流すことになるのだ。

「瞬は繊細で傷付きやすくて――あんまり傷付きやすくて、だから、俺は瞬に近寄れない。お互いガキだった頃とは違うんだからと期待していたんだが、やはり今でも駄目らしい。俺が、俺の価値観で瞬のために良かれと思ってしたことすべてが、瞬を傷付けるんだ。瞬のためというんだったら、俺が瞬の側に近付かないのがいちばんだろう」

辛い修行を耐えることで身体的にも精神的にも成長したはずの自分たち。
あの頃より――クワガタムシで瞬を泣かせてしまったあの頃よりは――瞬も自分も、お互いに強く、利口になったはずだと、氷河は、何の根拠もなく期待し、信じていた。
数年の年月を経た今ならば――と。


だが、事実は――。

事実は、氷河の期待した通りではなかった。
瞬は相変わらず泣き虫で、氷河自身も相変わらず自分の理屈でしか物を考えることができない。
瞬を傷付けたくないという思いは、子供だった頃よりはるかに強くなっているというのに、である。





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