瞬は――今の瞬は――氷河が好きになった瞬ではなかった。
今の瞬は、自分自身よりも自分以外の人間の心と立場をいつも優先させていた瞬ではない。
繊細なその心を傷付けることを怖れるが故に近付き難かった、あの瞬でもなかった。

無意味な自信に満ち、眉をひそめたくなるようなことを平気でしでかし、しかも反省の気配を見せない。
それは、氷河が好きになった瞬とはまるで正反対の資質でできた人間だった。

そんな瞬が、氷河は心中不快でならなかったのである。
不快でならなかったのだが、その代わり、今の瞬は、氷河にとって、以前の瞬よりもずっと近付きやすい存在ではあった。

我儘で無神経なじゃじゃ馬のような今の瞬は、無神経であるが故に、他人の無神経にも傷付かない。少々刺や毒のあることを言われたとしても、瞬は傷付くどころか、その刺や毒を倍にして、相手に返してよこす。
そんな瞬を傷付けるようなことがあろうとなかろうと、氷河にはどうでもいいことであったし、そんな瞬に嫌われることを怖れる必要もない。

それが自分の好きな相手ではないからこそ、嫌われたくないという思いを抱いている相手ではないからこそ、氷河にとって、今の瞬は近付きやい存在だったのである。





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