「僕は、僕が傷付くことで氷河を傷付けていたんでしょう?」

瞬の声は――氷河の好きな瞬の声は――沈痛の極みだった。

「人を傷付けるのが嫌いだなんていつも言ってるくせに、僕は――僕自身が誰よりも人を傷付けていたんだ」


「そんなことはない」
「事実だよ」

「瞬……」

事実。

その事実によって、瞬はまた傷付いてるのだろうか。
そんな瞬を見たくないから、傷付いている瞬を見たくないから、氷河は瞬を避けようとしていたというのに。

「これまでずっと……僕は人を傷付けたくないって言いながら、闘いで人を傷付けてきた。それで僕自身も傷付いて、でも、僕は、僕が傷付くことで氷河たちも傷付けてきたんだ」
「瞬……」
「自分の弱さをさらけ出して、それで、その弱さで、僕は、人に傷付けられまいとする防御壁を自分の周りに張り巡らせていただけだったんだ」

そうではないだろう。
瞬は本当に、人を傷付けることを怖れていた。
たとえそれが、人を傷付けることによって自分が傷付くことを怖れた故の感情だったとしても、瞬が人を傷付けることを忌諱していたことに変わりはない。

「人を傷付けるのが好きな人なんていないよね、氷河だって星矢だって兄さんだって紫龍だって……誰だってそうだよ。なのに、僕はいつも自分だけが傷付いた顔をしてた。氷河たちは黙って耐えてたのに…! それなのに、僕は……」

それ以上、氷河は、瞬に瞬自身を傷付けてほしくなかった。

「僕は、自分しか見えていない最低な人間だ…!」

「瞬、そんなことは言わないでくれ。おまえにそんなことを言われると、俺は……」

繊細で傷付きやすい瞬。
人を傷付けることで、自分自身も傷付いてしまう瞬。
そして、自分が傷付くことで、人を傷付ける瞬――。

今、氷河の目の前にいるのは、彼が好きになった瞬その人だった。

繊細であるが故に心弱く、その優しさの故に心に傷を負う、哀しい無力な小動物。

人は何故、自ら望んだわけでもないのに、自分を、そして、自分以外の人間を、傷付けたがるのだろう。傷付けてしまうのだろう。


「……ごめんなさい、また同じこと繰り返してる。やだ、僕の言うことで傷付かないで」

人は、自分と自分以外の人間を傷付けることしかできない生き物なのだろうか。
そんなことを心から望む人間など、おそらく誰一人、この世界には存在しないのだろうに。





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