瞬とのデートがそんなふうに健全ピクニックになってしまうくらいのことなら、氷河もまだ我慢ができた。

しかし、ペットントンの侵略は、彼の大切な(?)夜にまで及んだのである。

その夜、氷河が自分の寝室に赴くと、彼のベッドの上には小山ができていた。
もちろん、そこには、いつもの通りに瞬もいた。
要するに、氷河のベッドには、瞬とペットントンが横になっていたのである。

そこに、氷河の入る隙はなかった。
もとい、あることはあったのだが、氷河はそこに潜り込んでいく気にはなれなかったのである。

「瞬っ! いくら何でもこれはないだろーがっ !!  これは俺のベッドだぞっ! 俺はどこで寝ればいいんだっ !! 」
「え……? だって、僕、このベッドじゃないと寝つけないよ」
「おまえはいい! おまえはいいんだ! 問題はこの化け物だっ !! 」

「だって、ペットントンはひとりだと寂しくて眠れないんだって」
瞬の瞳には、実に、悲しいくらい邪気がない。

そして、腹の立つことに、ペットントンの瞳もまた、瞬と同様無邪気なものだった。
「僕、ひとりだと寂しい。瞬ちゃんと寝る」

「…… !! 」
なんという! なんという図々しさだろう!
氷河は、我知らず、怒髪天を突いていた。

「お……俺だってなーっ、俺だって、瞬と一緒でなきゃ」
『寂しーんだよっ !! 』
と言ったところで、その真意は理解してもらえまい。
おそらく、胴周りばかりが大人の4、5倍はある、この異世界から来た子供には。

氷河は泣く泣く、喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
彼は、別の理屈で、この異世界の生き物を退散させなければならなかった。

「おまえと一緒に寝てたら、瞬が狭苦しい思いをするだろーがっ!」
「僕、平気だよ」
「おまえが平気でも、俺が平気じゃないっ!」
「氷河のベッド広いもの。氷河も一緒に眠れるよ」
「そーゆーことを言ってるんじゃないーっっ !! 」

たとえ同じベッドで眠ることが可能だったとしても、このキノコの化け物が一緒にいる限り、氷河はしたいことができない、のだ。

その大問題を瞬がどう考えているのか――。
「瞬、おまえ……」
「なーに?」

「…………」
氷河は、やりきれないほどのカナしみと苦悩を湛えた眼差しで、罪悪感の全くない瞬の瞳を見詰めた。
そして、彼は、ここで真実を追究し、自身を落胆と失望の淵に追い込む事態を自ら招くことを賢明にも避けたのだった。


いずれにしても、ペットントンは邪魔者である。
彼がいる限り、氷河は、瞬とのめくるめく夜(?)を取り戻すことはできないのである。

それを悟った氷河は、ペットントンへの憎悪を更に更に募らせることになった。

「瞬ちゃん、もう寝ようよ〜」
ペットントンは、そんな氷河の募る憎しみも知らず、ノンキこの上なかったが。






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