ペットントンは故郷の星に帰っていた。 瞬に出会ったあの日の城戸邸の庭ではなく。 昼と夜の寒暖の差が激しい星だった。 咲いているのは、毒を持って強さを内に秘めた、あの白い花ばかりである。 この花のように、この星に生まれた子供は長ずるに従って、寒さと暑さに強くなっていく。 けれど、生まれたばかりの子供は寒さに非常に弱かった。 「ママ、ごめんね。僕、瞬ちゃんの命を救いたいの。でも、瞬ちゃんと一緒にいられない未来は辛いの」 ペットントンは、まだ赤ん坊の自分の顔を見詰めながら、なぜか、自分を煙たがっていた男の顔を思い出していた。 あの男も、きっと、自分と同じ立場に追い込まれたなら、やはり同じことをするに違いないと思った。 瞬のためになら――自分を孤独から救ってくれた者のためになら――何でもする。 瞬の側にいるためなら。 でも、いられないのなら、そんな自分はいらないのだ。 暖かい部屋のベッドで眠ってる自分を見詰め、ペットントンは窓を開けた。 刺すように痛い、冷たい風が室内に入り込んでくる。 1時間もすれば、生まれたばかりの子供は死んでしまうに違いなかった。 そうすれば、ペットントンが瞬に出会ったことも、共に過ごした時間も、瞬に白い花を贈ったことも、なかったことになる。 瞬は、異世界の生物に出会ったことを忘れ、愛しんだことも忘れ、そして、瞬を攫っていこうとしている死もまた瞬のことを忘れるだろう。 「ママ、ごめんね」 ペットントンは、家の外に出た。 白い花の咲き乱れる丘の上から、窓に映る母の影を見詰めた。 ペットントンの故郷の地が朝の光に包まれる頃、白い花の丘の上から、ペットントンの影は消えていた。 |