優しい朝の光を浴びてゆっくりと花びらを広げていく小さな白い花のように、瞬の瞼が微動する。 「おはよう」 俺にずっと見詰められていたことに気付いたのか、目覚めた瞬は少し戸惑いがちに、はにかむように、朝の言葉を唇に乗せた。 俺は何の言葉も返さない。 瞬のために、微かな笑みすらも、今の俺には作ってやることができなかった。 自分の腕の中にいて、望めばおそらくはどんな我儘も叶えてくれるだろう従順な恋人の心が、実は他の男のことで一杯なのだと知ったなら、俺でなくても――どんな寛大な男でも――そういう態度をとってしまうだろう。 しかも、その“他の男”が、恋人の“実の兄”などという、実に馬鹿げたモノだったなら。 認めたくはない。 が、認めたくなくても、それは事実である。 夕べ、俺の愛撫に喘いでいた時も、瞬の心には兄が住んでいたに違いない。 自分を抱いている男のことだけを考えていればいい時にすら。 自分が抱きしめている男の存在だけを感じていればいい時にすら。 まして、夜毎の嵐が過ぎ去った朝のひと時になど、瞬の心のどれだけが俺のために割かれているのか、俺には察することすらできなかった。 |