いずれにしても、フランスで暮らし続けるというのであれば、これまで通りヒョウガの豪奢な屋敷で暮らしているわけにはいかなかった。 ヒョウガはその屋敷を出ることを決め、フランス人の雇い人は解雇し、ロシアから付いてきた執事は帰国させることにした。 「女帝陛下には、フランスの様子はお知らせするつもりだが、情勢が情勢だけに連絡が長期に渡って途絶えることもあるかもしれないとお伝えしてくれ」 「ヒョウガ様を危険な目に合わせることは、陛下も望んではおらぬはずです! フランスの情勢を探るという任務は名目だけのことで、陛下はただヒョウガ様にフランス宮廷の優美を身に付けてほしかっただけなのだと、私は拝察しております!」 ヒョウガが一貴族として、初めて女帝の拝謁を賜った日。 美しいもの好きな女帝は、それまで打ち捨てておいた我が子の美丈夫振りに満悦した様子で、突然ヒョウガを優遇し出した。 広大な領地、瀟洒な邸宅、年齢に似合わないほどの高い地位。 この執事は、その際に雇い入れた者だった。 ほんの数年間を共にしただけの不幸な皇子を、彼は彼なりに気遣ってくれていたものらしい。 「ヒョウガ様は、女帝陛下の大切な御子です…!」 しかし、だからこそ。 「真実の愛情はいただけなかったがな」 彼はヒョウガの言葉の意味も正しく理解できたのだろう。 フランスには、“それ”があるのだ。 巨大な嵐に翻弄され始めようとしているこの国で、ついに手に入れた“それ”に殉じたいと願う、不幸な皇子の心を、彼は無言で受け入れるしかなかった。 |