「……何だ?」 ラウンジに入ってきた氷河は、その場の空気が妙に 膨らんでいるのに気付いた。 アテナの小宇宙にも似ていたが、在り方が小宇宙とは異なる。 それは、圧倒的でありながら暖かく、ひどく意思的な何かだった。 その意思の中心点にいる瞬はいつもの通り、穏やかな微笑を浮かべている。 対する星矢は、少しばかり呆けたような顔をしていた。 「氷河に会えて良かったっていう話をしてたの」 氷河の姿を認めると、瞬の微笑は花の様相を呈し始めた。 「氷河は僕に生きる意味をくれたから」 「? 俺もおまえに会えて良かったぞ。おかげで生きていることが嬉しくてたまらん」 氷河と瞬の見詰め合いは、その場に居合わせた第三者の存在を、それこそ無意味にしてしまう。 星矢は、その場に長くいると氷河に睨まれることになるだろうことを、すぐに悟った。 そして、彼は、小難しいことを考えて落ち込んでいるよりは、直感に従って突っ走る方が自分の性に合っていると開き直った。 一度決意してしまうと、星矢は行動が速い。 「あ、じゃ、俺、レンタル屋行って、CDの中身、変えてもらってくるわ。やっぱ、俺には『タ○ムボカン・シリーズ』の方が合ってるみたいだぜ」 そう告げた5秒後には、星矢の姿は、夏の夕立があがるようにすっきりと、ラウンジから掻き消えてしまっていた。 |