「本当に何を話してたんだ? 星矢の奴、おまえに気押されたような顔をしていたぞ」
「昔、僕が考えてたようなことだよ」

「? 何を考えていたんだ? おまえは以前」

それが瞬に関することなら、どんな些細なことでも知りたい氷河が、星矢の姿が消えてくれたのを幸い、瞬の座っているソファのアームに腰を降ろし、唇を瞬の肩に埋めるようにして尋ねてくる。
瞬はくすぐったそうに、僅かに肩をすくめた。

「僕が氷河を好きになることに意味はあるのかとか、そんなこと」
「答えは出たのか?」
「意味は存在するものじゃなく、作るものだっていう結論に達したかな」
「そうか」

氷河の声は、気のない生返事にも聞こえた。
しかし、瞬にはわかっていた。
自分の首筋に戯れることに夢中になっているような氷河が、その聴覚器と記憶機能をフル稼働させていることを。

氷河が、瞬の言葉をなおざりに聞くことなどありえないのだ。


「氷河は迷わなかったの?」
「迷っている暇なんかなかった。おまえが眩しくて」

氷河の指と唇が、今度は、瞬の髪に戯れる。

「うん……。僕も本当は、そんなに深く考えたわけじゃなかったの。氷河と一緒にいるうちに“意味”は自然に僕の中に生まれてきたから」


そんな思いを、否定したり、無意味・無能と思うことなどできるものだろうか。


瞬には、できなかった。






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