「どうしてこんなことをするの」

ベッドに押し倒された瞬は、しかし、冷静だった。
瞬は、穏やかな口調で、とんでもない行為に及びかけている饒舌聖闘士に尋ねた。

「俺がおまえを好きだからだ。他にどんな理由がある?」
氷河もまた、瞬が落ち着いていることに驚いた様子は見せない。
彼は、実に納得できる答えを、瞬に返してきた。

「僕の都合は考えてくれないの」
「心の準備をしておけと言っておいたぞ」

「…………」

どうやらそれは、氷河なりに瞬の都合を考慮した上での言葉だったらしい。
瞬は小さな溜め息を一つ漏らしてから、自分を組み敷いている男の青い瞳をまっすぐに見詰め、駄々っ子を諭すような口調で告げた。

「その前にしなきゃならないことがあるでしょう。氷河はいつからこんな自分勝手な人間になっちゃったの」
「自分勝手か、俺は」
「星矢たちにはそう見えてるみたい」

「おまえは?」

声に抑揚はなかったが、氷河は確かに不安そうだった。
「おまえもそう思っているのか」

「思われるだけのことをしているよ、氷河は」
「…………」

瞬の返答に、駄々っ子が意気消沈する。

「でも……」

瞬は、どうしようもなく不器用な子供だった頃の氷河を知っていた。
だからこそ、これまで、氷河の自分勝手を責めることなく許してきたのだ。

「こんなことをする訳を教えてくれたら、許してあげる」

「…………」

瞬にそう言われた駄々っ子は、瞬を組み敷いていた腕から、ゆっくりと力を抜いた。






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