瞬は、しかし、花ではなく、人間だった。

花は、
「身体が弱いのか」
と尋ねた者に、
「花になる病気なの」
とは答えないだろう。

「風にも弱くて、陽の光にも弱くて、早く走っちゃいけなくて、何かに感動して興奮するようなこともしちゃいけなくて、ただ雪笹の花みたいにじっとしてなきゃならない病気なの」

そう告げて、瞬は、俺をじっと見詰めた。
まるで、ひっそりと咲いている花を見つけた者には、その花を愛し救う義務があるのだと言わんばかりの――否、そうあって欲しいと恋い願うような――眼差しで。


走ることも興奮することも許されないというのなら、おそらく心臓か呼吸器系の病なのだろう。
そう考えてから、俺は横に微かに首を振った。
「花に心臓があるはずがない」

「でも、心はあるの」

俺の独り言のような呟きに、白い人間はきっぱりと答えた。






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