瞬のいるサナトリウムには、弟のために医者になった兄がいるという話だった。

「人が愛し合う行為って、死にまで高まる生の讃美なんだって」

花に魅せられた俺は予定を変え、高原の町の外れのホテルに部屋をとった。

「でも、僕にはそれができないの」

俺はその花に最初から心を奪われていたし、花というものは、自分に美を見いだす人間にはいつも真実の姿を見せようとするものである。
その真実の姿をフィルムに収め、俺は今の成功を手に入れた。

花の真実とは、美ではない。
欲なのである。

存続への執着。
来年も、その次の年も、10年後、100年後にも美しい花を咲かせたいという。
人間が抱く生命への執着など、花のそれに比べたら、あまりにささやかな欲望でしかない。


「それができない僕は、じゃあ、死んでるの?」


瞬は、永遠ではなく、一瞬の生を望む花だった。

瞬と共に日々を過ごすうちに、瞬の望むものが何なのかが、俺にもわかり始めていた。






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