再度訪れたその場所で、俺は、5月の頃と同じように咲き群れる白い花を見ることになった。

そんなはずはない、と訝ると同時に目眩いを覚えた。

そこには、とうに季節の終わった花だけでなく、死んだと聞かされていた瞬の姿までがあったのだ。

「瞬……。おまえは死んだ……と、おまえの兄が――」

幻かもしれないのに、幻なら、もっと気の利いた言葉でも囁けばいいものを、俺の唇から出てきた言葉は月並を極めていた。

「兄さんに頼んだの。兄さんは僕のためならどんなことでもしてくれるの」

瞬は、俺の間の抜けた問いかけにも、呆れた様子は見せなかったが。

「だって……氷河に会いたかったから。氷河以外に、ほんとの僕を見てくれる人は誰もいないって、氷河がいなくなってわかったから」

「生きている……のか?」

それでなくても、幻影のような場所。
“生きて”いた時にさえ、白い花の精のようだった瞬。

俺は、確かなものを、ただの一つも、その空間に見いだすことができずにいた。

瞬の言葉すら、俺の作り出した幻聴なのかもしれないような気がした。


「……嘘」
「なに?」

「この花の群生に、目眩いがしなかった?」
「…………」
「ここは高原にある場所だから涼しいけど、もう7月も終わりだよ。まだ雪笹が咲いてるなんて変でしょう?」

瞬は微笑んで言った。

「僕は死んだの」
――と。






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