「ここは生と死の間の世界なの」

「死んだら、全てから解き放たれるから」

「全ての規制から、束縛から、弱い身体からも解き放たれるから」

「僕は死んだの。僕の身体はもうないの。だから、いくら氷河と愛し合っても、僕は死なないの」

「僕の元の器は、今は療養所の冷凍室にある。兄さんは、僕を焼くことも埋めることもできないでいるの。あんなの、ただの出来の悪い器だったのに……」

瞬は、弟の死を悲しんでいる兄を悲しんでいるようだった。
その器で確かめる愛にこだわっていたのは、瞬のはずだったのに。

いや、そもそも瞬は本当に――死んでいるのだろうか?


「瞬……」


「氷河、僕が恐い? でも、恐がらないで。僕は氷河に愛されたくて、僕の身体を自分から捨てたんだから」

その言葉が真実のものなのであれば、今、俺の目の前に咲いているのは、死に抱きとめられた花――ということになる。

「…………」

恐ろしくなかったと言えば嘘になる。
たとえ、瞬の言葉が嘘で、俺の目の前にある瞬が生きているのだとしたらなおさら、そこまで生を――自分の思い描く生を――求めずにいられない瞬が恐ろしいことに変わりはない。

だが、その瞳が。
悲しそうな瞬の瞳が、俺から恐怖を拭い去っていった。

そこにいるのは、生きているにしても、死んでいるにしても、俺の愛した瞬だった。

そして、俺の欲しい瞬だった。






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