激しい情炎に突き動かされて、俺は瞬を抱きしめていた。

死んでもいい――瞬が、瞬の身体が、俺の腕の中で死んでしまっても構わなかった。
瞬を殺すという罪にも、怖れは感じなかった。

俺はもう瞬を失いたくない。
瞬を失うことに比べたら、瞬の死や俺の罪など、どれほどの脅威だろう。

「瞬……!」

俺は、獣のような目をしていたに違いない。
瞬は嬉しそうに、俺の鋭い爪と牙の前に、その身を投げ出してきた。


身体を引き裂かれ、血にまみれ、その後で、この世界に残すものが、獣に食い散らかされた残骸だけだったとしても構わないと、瞬の全身が俺に告げていた。


俺は瞬のまとっている人間の皮を剥ぎ取り、肌を舐め、肉をかじり、骨を愛撫した。
その身体の奥まで、もっと奥まで、瞬の何もかも全てを俺のものにするために。



瞬が俺の下で喘ぎ、歓喜の声をあげる。
瞬はそれがどんなことでも、俺の求めることに応じた。 
求めることと求められることに慣れていない稚拙な動作で、必死になって、俺を燃え立たせようとした。
そんなことは不要なほどに俺が猛っていることにも気付かない無垢な瞬の本質は、やはり獣ではなく花だったのかもしれない。

ひばりのように可愛らしい声が俺の名を繰り返し呼んだ。
やがて、その声はすすり泣きに変わり、言葉を発することもできなくなり、荒く掠れた風の音めいてきた。

俺の手や指や舌や唇が、瞬の肌や肉に触れ、這い、絡み、瞬の身体の内部から瞬自身も驚くほどの欲望を引きずり出そうとして動くたびに、瞬は自分自身の内にある人間の欲に驚いたように息を飲み、それから再び歓喜の声をあげる。

徐々に花から人へと変わっていく自分に、瞬は狂喜しているようだった。

もしかしたら、それは、理性の勝った人間ならば、あまりの醜悪さに眉をひそめるようなものだったかもしれない。
しかし、瞬は、それをこそ望んでいたのだ。

花ではない自分――を。

瞬の身体の奥から尽きることのない欲望を引き出そうとしている男の名を、瞬の指が、髪が、胸が、脚が、繰り返し叫んでいた。






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