氷河は苛立ちを静めるためではなく、自分が苛立っていることを一輝に知らしめるために、わざと大きく音を立てて舌打ちをし、それから、乱暴に一輝の向かい側のソファに腰をおろした。 「本当に外れてるな」 一輝が、それまで読んでいた本をセンターテーブルの上に投げ出しながら、呆れたように呟く。 氷河はムッとして、瞬の兄を怒鳴りつけた。 「何が外れてるんだ! ああ、どーせ、俺には瞬を怒る権利はないさ。しかし、貴様を邪魔に思う権利くらいは――」 その氷河の怒声を、一輝は、更に呆れたような声音で遮った。 「ああ、違う。貴様の的外れな焼きもちのことじゃない」 一輝がそう言いながら、たった今自分がテーブルの上に放り投げた雑誌を、顎で指し示す。 氷河がテーブルの上に視線をおろすと、そこにはロールシャッハテストの図形が描かれた表紙に、白い文字で『色彩占い』と書かれた薄い小冊子があった。 「貴様、こんなモノを読んでいるのか」 そもそも占いなどというものを信じない氷河は、その声音の主成分を、怒気から蔑みに変化させた。 自分自身も、自分自身の未来も、運命などというものに支配されているはずがない。少なくとも、それは自分の意思と努力とで変えられるものである――それが、氷河の持論だったのだ。 「相手を見て、ものを言え。星矢が置いていったんだ」 「星矢?」 この本の持ち主が星矢だというのは、一輝以上に意外な話である。 「ミホチャンとかいう子に貰ったんだそうだ。ハズれすぎていて面白いから読めと言って、置いていった」 「ああ、星の子学園の」 すぐに合点して、氷河は、その“ハズれすぎていて面白い”という本を手に取った。 「星矢に言わせると、俺のイメージカラーは赤で、貴様は青なんだそうだが、その本に書いてあることは何から何まで見事に逆なんだと」 「ふん……?」 自分と一輝のイメージカラーが反対色だということ、対立する色だということには、氷河も素直に納得できた。 自分のイメージなど自分にはわからないが、一輝が“赤”だという見解にも異論はない。 |