「どうだ、大外れだろう」

一輝が同意を求めてくるのに、氷河は不愉快そうに顎をしゃくった。

「どこが外れている。この通りじゃないか。俺は、冷静で、理知的で、クールな――」


たわ言を聞く気はないと言わんばかりに、一輝は氷河の声を遮った。
「瞬が俺と出掛けると聞いただけで、癇癪を起こすような奴のどこが冷静で理知的だ。強引で我を通したがって、貴様は青よりはむしろ赤の男だ」

氷河は、一輝の言葉に憤った。
憤りはしたが、反論することはできなかった。
反論の余地がなかったのだ。


紡ぎ出せない言葉に目許を引きつらせている氷河に、一輝が思い切り軽蔑の視線を向けてくる。
「むしろ、俺の方が青だ。可愛い弟に我儘を言って困らせるロクデナシをブッ殺したいのを、じっと我慢しているんだからな」

「俺がこんなふうになったのは……」

瞬のせいだ――と言おうとして、氷河はその言葉を喉の奥に押しやった。
それは、おそらく、一輝も同じなのだろう。


本来は赤。
本来は青。

瞬のために、
瞬のせいで、
本来の赤は青に、
本来の青は赤に、
変えられてしまったのだ。


一輝も、そのあたりは自覚できているらしかった。
「ふん。貴様の我儘で瞬が振り回されているのだなどとは思うなよ。瞬に振り回されているのは貴様の方なんだからな」

「何とでも言え! 瞬の前で、冷静でなんかいられるか!」
「俺は、瞬の前で、我儘なガキではいられない」

「…………」
「…………」


瞬に変えられてしまった二人は、嫌そうに互いの顔を一瞥し、そして、それから、そっぽを向いた。


仕方がないではないか。

それぞれの価値観と判断と衝動。
瞬を自分の世界の中心に置いた途端に、それらは180度変わってしまったのだ。




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