「馬鹿か。誰がどう見たって、黒は瞬のイメージじゃない。瞬はもっと明るくて、軽々としてて、放っておくとどこかに飛んでいってしまいそうで――緑でないなら、むしろ白だ」

「瞬がおまえに染められたか。瞬に変えられたのは、おまえの方じゃないか」

「…………」

またしても反論できないことを言われ、またしても氷河は返す言葉に窮することになった。


「瞬は変わらないんだ。瞬を、いつかは枯れ果てる樹木や頼りなく咲く花だと思うな。緑を茂らせ花を咲かせる大地こそが瞬だ」

瞬の兄の口調は、嫌味なほど自信に満ちていた。

「瞬がどこかに行ってしまうと感じるのは、貴様が勝手に不安がっているだけのことだ。貴様自身が不安だから、貴様は、瞬に我儘を言って、駄々をこねて、瞬がどこまで自分を許してくれるのか試したがっている。だが、瞬は……」

その先を、言葉にしてしまうのが一輝は嫌だったのかもしれない。
自分だけのものだった弟を奪っていった男に、そこまで親切にしてやる気にはなれなかったのかもしれない。

「――まあ、答えはおまえが自分で出すんだな」

赤い血を大地に吸い取られ、大地を見守る空の青に変えられてしまった男は、それだけ言って、口をつぐんでしまったのだった。




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