「…………」 アダムが楽園から持ってきた土は、ニグルウム・ニグリウス・ニグロ――黒い、黒よりも黒い――豊かな土だったという。 その黒い第一原質は、結合や腐敗や洗滌、赤化、黄化によって、白を産み、赤を産み、青を産み、緑を産み、黄金をも産む。 そして、最後にそれは“賢者の石”を産むというのが、近代以前には広く信じられていた通説だったらしい。 色の三原色、光の三原色などという概念のなかった時代には、否、その概念が知られるようになってからも、人々にとって、黒――大地の色――は、すべての色の源だったのだ。 大切な者たちを亡くし、執着するものも求めるものも失ってしまった氷河を根無し草でなくしてくれたのは瞬だった。 黒い大地は逃げはしないだろうか? ――そう考えて、氷河はすぐに思い直した。 そして、苦笑しながら、軽く左右に首を振った。 大地から逃げられないのは自分の方なのだということに気付いて。 大地を生活の場とするものたちだけでなく、大空を舞う鳥にとっても、心と身体を休められる場所は大地以外にないのだ。 空では、人は憩えないのだから。 |