元はと言えば 半年前の秋。 元生徒会長・紫龍の強力な推薦を受けて、まだ1年生だった瞬は、忠律府高校第42代生徒会長に選ばれた。 「生徒会長と言えば、学校の顔だ。顔はいい方がいいに決まっている。それに、当忠律府高校のように平和な学校は、瞬みたいな性善説の信奉者が、善意と奉仕の精神だけで生徒会を運営していくことが可能だし、また、可能だということを証明することで、“平和な忠律府高校”の名声はますます上がることだろう」 ――という訳のわからない選挙応援演説に、在校生のほとんどが納得してしまったのだから、なるほど平和な学校ではあった。 実際のところ、瞬には事務能力も備わっていたし、各クラス・各部代表者の意見や要望の調整もそつなくこなすことができたのだが、忠律府高校の生徒たちにとって、瞬は、何よりも平和でのどかな学校の象徴だった。 快適に生活を送れている時、人はその快適さの価値に気付かないものなのである。 瞬自身が、1年生の身で上級生に反感を買うことなく生徒会を運営している自分自身を傑物だと思うこともなかった。 瞬には、確かに統率力があった。 瞬は、生徒たちの理屈と感情の両方を巧みに操作する術と才能を、ほとんど自然のものとして備えていたのだ。 誰もが瞬の言うことには従ったし、賛同した。 |