さて、朝になって、金ダライの衝撃から覚めた氷河王子は、隣に瞬がいないのに大慌てです。
ついに出会った理想の恋人が、魔法のように忽然と消えてしまったのですから、氷河王子の周章狼狽も仕方のないこと。


ダイヤモンドダストで塔のドアをぶち破ると、氷河王子は王宮に飛び込んでいって、玉座に就いている父王を怒鳴りつけました。
「瞬をどうした! 瞬を返せっ !! 」

「血相を変えてどうしたのだ。瞬とは何者だ。もう少しクールに話さんか」
「…………」

氷河王子は、最初は父王がとぼけているのかと思いました。
けれど、よくよく考えてみれば、後継ぎを欲しがっている父王が、氷河王子のベッドに男の子を送り込んでくるなんておかしなことです。

では、他の重臣たちの仕業だったのかと、一人一人問いただしてみても、瞬のことを知っている者は誰もいませんでした。


「それは、魔神の仕業ではありますまいか。魔神が人間嫌いの王子様を試そうとして、どこからか美しい少女を運んできたのでしょう。お諦めなさいませ。魔神は一瞬のうちに世界の端から端へと移動します。その少女に再び会おうと思ったら、王子は世界中を捜してまわらなければなりません」

氷河王子にそう告げたのは、王宮付きの占い師でした。
平生の王子なら、占い師の言葉など聞きもしなかったでしょう。

けれど、王宮には誰も、瞬のことを知っている者はいませんでした。
占い師のその言葉以外に、この不思議な状況を説明できるどんな言葉も、王宮にはなかったのです。






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