キグナス舞踊団は、古典バレエからモダンバレエ、ジャズダンス、能、フラメンコ、アルゼンチンタンゴ等の各国の民族舞踊、すべての要素を取り入れた創作舞踊団のようなものだ。
トゥ・シューズを履いた踊り手と裸足の踊り手が混じっているような、決まったスタイルのない舞踊家集団。

あらゆる要素を含んでいるが故に国境もなく、各国から瞬の振り付けに惹かれたダンサーたちが集まってきている。

とはいえ、舞踊団の名前からわかるように、団員の全てが古典バレエの基礎だけは身に付けているのだが。

劇場だけでなく、スタジアムなどで公演することもある。


今度の演目は『春の祭典』。
ワスラフ・ニジンスキーやモーリス・ベジャールが、それぞれの時代に画期的な振り付けで時代を画してきた名作中の名作だ。


春の訪れを喜ぶ人々。
彼等は、一人の乙女を太陽神に生贄として捧げる。

言ってみればそれだけのストーリーなのだが、瞬はそこに、生贄の乙女の恋人役を配した。
犠牲の乙女をフレアに、乙女の恋人役に俺が抜擢されたのだが、それは俺とフレアが北の国の出身だったからなのかもしれない。

春の訪れがどれほど喜ばしいものなのかを、俺とフレアは身体で知っている。
それは、来年もまた、その喜びを享受するためになら、自分の命さえ惜しくないほどの喜びなんだ。


俺には自信があった。
犠牲の乙女の恋人役を、他の団員の誰よりも上手く踊れるという。

比較の相手が同僚なら――である。






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