主宰は、スーツを着たまま、革靴で踊り出した。
ほんの1、2分。

しかし、俺は圧倒された。









「そう、こんなふう。わかる?」

そう言って、瞬は主宰に、
「ありがと、氷河」
と、事も無げな口調で礼を告げた。

「別に。これは俺には踊りやすい。おまえを思って踊ればいいだけだ」
主宰も、自分が大したことをしたとは思っていないらしい。

金と公演の成功しか口にしない――普段の言動とは全く違う主宰の踊りに、俺は瞠目した。


主宰の“青年”は、苦悩しつつも歓喜していた。
乙女が自ら望んだ犠牲を。

それは、だが、この祭典が終ったら、“青年”は自らの命を絶つだろうとわかる踊りだった。
こういう解釈があったのかと、俺がそこに辿り着くことを瞬は望んでいたのかと、俺は、主宰の踊りに圧倒されつつ、恥じ入っていた。


これでは、
『犠牲の処女の役を振り付け師のニジンスキー本人が踊ったら、どれほど素晴らしいだろう』
とマリー・ランバートに言わしめた、『春の祭典』初演と全く同じだ。

踊り手より、スタッフの方が上手い――。


そして、俺はひどいスランプに陥った。






【next】