一輝は、弟に、氷河に、そして誰よりも自分自身に苛立っていた。

氷河が瞬にイカれているだけの男だった方が、まだずっとましだった。
そんな男が相手なら、一輝は、自分はいつでも瞬を取り戻すことができるのだと安んじていられただろう。
しかし、ただ愚鈍なだけだと思っていた氷河は、相当にしたたかな男だった。

一輝は、そんな男の側に瞬を置いておきたくなかったし、そんな男に瞬を奪われ、対抗することもできない自分自身が腹立たしくてならなかったのである。

しかし、それとは全く違うところで――瞬が幸せだというのなら、それが自分の手に為るものでなくても、それでいいではないかという、諦めに似た感情も、一輝の中には生まれつつあった。


瞬のために、自分はプライドを捨てることすらできないのだから――と。






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