リリィちゃん騒動も終わった頃(というより、青銅聖闘士たちがその現実に慣れてしまった頃)、アテナ・城戸沙織は、星矢たち青銅聖闘士を城戸邸に招集した。 召集――と言っても、要するに、城戸邸で起居していない一輝を城戸邸に呼びつけただけのことだったが。 5人揃った青銅聖闘士たちを前にして、沙織は、その眼差しに女神の慈愛と貫禄をたたえ、実ににこやかにのたまった。 「黄金聖闘士たちのコックローチ・バスターズは大盛況・大成功よ。財団が宣伝しなくても世間は彼等を話題にしてくれるし、彼等のスケジュールは10年先までびっちり、『芸は身を助く』って本当ね。黄金聖闘士たちは見事に自分たちの生活費を稼ぎ出しているわ」 「…………」 × 5 星矢たち5人は、沙織の言葉に異議は唱えず、しかし、内心でこっそりと『芸は身の仇』なる言葉を呟いたのである。 コックローチ・バスターズは、今では彼等の生活費どころではない莫大な利益をグラード財団にもたらしていた。 しかし、それは、本来のリリィちゃん退治による稼ぎではない。 彼等のその奇想天外な仕事と成功が、某経済誌で『グラード財団新事業に進出』という特集を組まれたのが最初だった。 世間は、いい歳といい顔をしたいい男たちが、リリィちゃん撲滅などという至上任務に燃える様に、俄然興味を持ったのである。 新聞・テレビで取りあげられ、『私はこうしてコックローチ・バスターズになった』なる書籍が12冊発売になり(無論、中身はゴーストライターが書いたものである)、黄金聖闘士たちの半生が広く世間に知られることになった。 その仕事ぶりを写した写真集も発売され、もちろん大変な売り上げ数を記録した。 半生記同様、写真集も12人分が売りに出されたのだが、その売り上げは(カドが立ちそうなので具体的順位の記述は避けるが)、顔の良さと正比例するものだった。 つまり、世間の人間は、黄金聖闘士たちの、見てくれの良さと、彼等の従事する仕事の内容とのギャップを楽しんだ――というより、笑いものにしたのである。 つい先だっても、『黄金のリリィちゃん』なる訳のわからない絵本が発売されたばかりで、それが児童向け書籍としては異例の売り上げを、今も順調に伸ばしているらしい。 星矢たちは、そういう現状を踏まえて、つまり、沙織の前で滅多なことは口にすまいと用心したのである。 グラード財団総帥城戸沙織は、才能あふれる起業家であり、利益になるなら、身内の不幸も売り払う金儲けの天才である。 『これは金になる』と彼女に目をつけられたら最後、ターゲットにされた者の人生は、大いなる破滅に向かって走り出すことになるのだ。 だから、リリィちゃんの一件以来、星矢たちはひたすら地味に毎日を過ごしてきた。 沙織のいるところでは、息を潜めるようにして、彼女の目にとまらぬよう、大人しく、控えめに、借りてきた猫のような態度で、鳴りを潜めていたのである。 沙織の、 「で、この際だから、あなたたちにもご出馬願おうと思って」 ――という一言を恐れるあまりに。 |