兄上が僕に命を絶てとおっしゃらないのは、僕を軽蔑していらっしゃるからなのではないかと、不安でなりません。
命を賭してまで守るべき誇りも持たない弟だと、兄上は僕を見限ったのではないでしょうか。


フォルトナートは美しい男です。
兄上とは全く趣が違いますが、輝くような金髪と寂しそうな青い瞳の持ち主です。
母親を早くに亡くし、孤独な幼年時代を送ったそうですから、そのせいかもしれません。
アッツォの庶子だということですが、アッツォがいちばん目をかけている息子です。

僕が彼を恐れるのは、その才気でも、彼の背後にあるエステ家の権力でもなく……兄上はお笑いになるでしょうか。
僕は彼の優しさが恐いのです。

フォルトナートは、僕から全てを奪いました。
兄上を奪い、ヴェローナの領主の弟という立場を奪い、その地位に付随していたありとあらゆる特権を奪いました。 
僕は彼を憎むべきですし、彼もまた僕に憎まれていると思っているはずです。
それなのに、彼は、僕に食事を与え、部屋を与え、寝床と着るものを与え、こうして僕が兄上に手紙を書いていられることからもおわかりのように、一人になる自由さえ与えてくれる。


僕は彼が理解できないのです。
だから恐い。

皆が言うように、彼が僕に夢中なのだとしても、彼は勝利者です。
僕の意思など無視して僕を支配すればいいのに、実際、初めての時はそうしたのに……(本当です! 僕は自ら望んで、彼の腕に抱かれたわけではありません)(それくらいの狡知を弄しろと、兄上は逆にお笑いになるのでしょうか)


話を変えましょう。
兄上が、ご自分の統治を『過酷に過ぎた』とおっしゃったことに驚きました。
このたびの戦いに敗北したことで、そのことに思い至ってくださったのでしょうか。

以前の兄上は、ご自分のなさることをそんなふうにおっしゃることはありませんでした。
僕や側近の者たちがどんなにお諌めしても、機嫌を損ねたように撥ねつけるだけで……。

こんなことを申しあげたらお怒りになるかもしれませんが、僕は嬉しい。
兄上が再びヴェローナを奪還し、領主の座に返り咲いた時、兄上は今度は慈悲深い領主におなりになってくださいましょうか。
  
民心を捉えることのできない領主は 結局は民衆に見捨てられます。

確かに兄上はお強かった。
誰もが兄上を恐れていました。

けれど、民が兄上に抱いていた恐れこそが、民に領主を裏切らせ、敵の軍隊をヴェローナの町に招き入れたのです。

もう二度と、同じ轍を踏むようなことはあってはなりません。
どうぞ、慈悲深い領主におなりください。
僕の心からの願いです。


1262.7.15   アンジェロ






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