「あー、つまりだな。氷河は敵との闘いで鬱憤晴らしをしているというか、バトルで身体を酷使することで、自分の中にたまっているものを発散しようとしているというか……」 「?????」 紫龍は、朝っぱらからそんなことを――それも、その手のことにいちばん縁遠い場所にいる星矢に――説明せざるを得なくなったことに、少々苦っていた。 「つまり端的に言うとだな」 しかも、星矢には婉曲話法が通じないのだ。 「氷河は瞬とやりたいんだ。自分を抑えるために、闘いで気を紛らせているわけだ」 「やりたいって何を」 「そこまで言わせんでくれ」 「へ???」 妙にモテるくせに奥手な星矢は、5分の間をおいてから、 「あ……えええええ〜っっ !!?? 」 超ド派手に赤面した。 「ま、そーゆーことだ」 やっとわかってくれたらしい星矢に、紫龍がほっと吐息する。 「あ……あ…え? えー、それって、つまり、瞬と寝たいってことか?」 星矢の辞書に『婉曲』という単語は載っていない。 紫龍は、両の肩をすくめて肯定の意を伝えた。 「うっわ、そりゃ、氷河……」 星矢が盛大に顔を歪め、それからがっくりと肩を落とす。 「氷河の方に同情する……」 星矢は脱力しきった声音で呟いた。 「あの瞬に、んなことできるわけねーよなー。それって、なんつーか――」 「明るい草原でだな、健気に太陽に向かって咲いてる小さな花を乱暴に根元から折って、食い散らすような行為だ」 「うんうん、そんな感じ。人間のすることじゃねーよな」 これを人はアンジェリズムと言う。 相手を天使のように精神的・崇高な存在とみなし、その肉体性・官能性を無視する態度。 他者をそういうものと思い込むのは個人の自由だが、勝手に天使にされてしまった側は、果たしてそれを喜ぶことができるものだろうか。 「……瞬」 いつの間にか、紫龍の部屋の扉の前に、天使が立っていた。 「げ、瞬、今の聞いてたのかっ !? 」 自分を人間だと信じていた天使は、頬を真っ赤に染めて、その場から駆け出した。 |