「下にも置かないもてなしだね」

その夜、石のテーブルに山と積まれた食べ物を眺め、瞬は呟いた。 

この島の民がそうだと信じたがっているのだから、自分たちが神の使いなどではないと告げる愚を犯すつもりはなかったが、彼等の求める代償が何なのかが気にならないでもない。

当座の日々は不自由なく過ごせそうだったが、しかし、この島では、何となく月が遠かった。 


「自然にも恵まれているし、話を聞いた限りでは、島民も素朴で、危険な宗教やタブーもなさそうだ」
氷河のそれは、瞬を安心させるための言葉だったろう。

「うん、月食はここで待つしかないかな……」

それでもどこか心許なげな瞬の肩を、氷河が抱きしめる。

その指に込められた熱を感じとって、瞬は呆れたように、氷河の目を覗き込んだ。

「……よく、こんな状況でそんな気になれるね」
「まあ、不安から逃れるためにだな」
「不安がってるようには見えないけど」
「おまえがいるからな」
「不安じゃないのなら、紛らす必要もないじゃない」
「それとこれとは話が別だ」
「論理が破綻してるよ、氷河」

溜め息は、氷河に向けられたものだったろうか。
否、そうではなかった。

「おまえが不安だろう。俺はあくまで、おまえを慰めるためにだな、こーゆーことをするわけだ」
「もう……」

いたずらな氷河の手に顔をしかめてみせながら、しかし、瞬は、氷河に身体を開いていった。






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