ピラミッドは、夏至と冬至の太陽の位置を考慮して建てられる建造物である。
この島にピラミッドがあるということは、未開のこの島が相当の天体観測の技術を有しているということで、それ故、この島の住民が、月食の訪れを知っていることを聞かされても、氷河と瞬は大して驚きもしなかった。

明日執り行われる祭りが、欠ける月が再び満ちることを祈る祭祀だと知らされても、さもありなんと頷くだけだった。

――が。

その祭りで、天空の神に生け贄が捧げられるという話を聞いて、二人はそうそう冷静でもいられなくなってしまったのである。
しかも、その生け贄が自分たちのどちらか一方だと言われてしまっては。

氷河と瞬にその話をしてくれた少女は、神に捧げられることを神の使いが喜ばないはずはないと思っているらしく、どちらかと言えば嬉しそうに、その儀式のことを二人に教えてくれた。


「お二人に闘ってもらって、どちらを神に捧げるのかを決めるのです」 
「はは。じゃあ、間違いなく俺が生け贄になることになるな」
「あなたはお強いのですか」
「いや、瞬の方がはるかに」
「そうなのですか? では、生け贄はシュンさんの方になりますね」
「? 俺は、瞬の方が強いと言った」

「ですから……。弱い者を捧げられても、神はお喜びになりません」
少女は、微笑すら浮かべて、氷河と瞬にそう告げた。

彼女が言うには、数百年の長きに渡り、月や太陽が欠けるたびに月と太陽の復活を願って、この島では神に生け贄を捧げる儀式が行なわれてきたということだった。
もし、神の使いが訪れなければ、今回の生け贄を決めるための闘いに臨むのは、彼女が心を寄せている青年になるところだったらしい。

それ故、彼女は、氷河と瞬の来訪を喜んだのだそうだった。

「俺が勝てば、瞬は命までは奪われないのか」 
「弱い者の血など、神は喜びませんから」

「……道理だな」

氷河は、感心したように頷いた。






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