「どうしよう、氷河……」
「ん……。とりあえず寝るか」

「……え?」

少女が軽い足取りで氷河と瞬の許を立ち去っていくと、瞬は暗い表情を氷河に向けた。
そして、彼の答えを聞いて、耳を疑った。

「寝よう」
と、氷河は瞬に言ったのだ。
いつもの夜と同じように。

「氷河っ、なに考えてるのっ !! 」
「他にすることもないだろう。他にどうしようもないし」
「だから、どうにかできないかを考えようって言ってるんじゃな……あ…!」
あらぬところに触れられて、瞬は全身を震わせた。

「おまえを黙らせようと思ったら、ここがいちばんだな、やはり」
「氷河っ!」

氷河を責める瞬の声は、しかし、どこか上滑りだった。

こんなことをしている場合ではない――のである。

自分たちのいずれかが神への捧げものにされる。
そこから逃げようとすると、他の誰かが犠牲になる。

確かにどこにも逃げようがないし、これが最後の夜になるのかもしれない。
しかし、である。

「氷河、もう少し真剣に現実を憂う気はないの……」
そう訴える自分の瞳がどんなふうに潤んでいるのかがわかるだけに、瞬の困惑は微妙だった。
今自分たちが置かれている場所から逃げるための打開策を考えなければと思う一方で、身体の芯が氷河に触れてもらいたいと訴えてくるのである。

氷河は、迷っている瞬の首筋を掴むようにして顔を上向かせ、その目を見おろした。
「おまえが、そんな目をして、俺を見るのがいけない」

それは瞬も同じことだった。
氷河に見られていると思うだけで、その視線を感じるだけで、瞬の身体の芯はますます熱く疼いてくる。

「あ……」

氷河の視線を目で受けとめていることに耐えきれなくなって、溜め息とも喘ぎともつかぬ息を洩らし、瞬は瞳を閉じた。






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