裸の身体を乱暴に引き寄せられる。

ほとんど同時に、
氷河の唇が瞬の唇を塞ぎ、
舌が口腔を犯し、
氷河の指が瞬の内部に侵入し、
瞬は氷河を受け止め、
受け入れ、
逃がすまいとして、
身体のすべてを氷河に絡ませていった。

普段は、瞬は、氷河に対して独占欲など感じることはない。
しかし、この時ばかりは、心は言うに及ばず、髪も、瞳も、唇も、腕も、胸も、脚も、氷河の全てを自分のものにしたかったし、自分の全てを氷河に奪われてしまいたいと願うのが常だった。 


「こんな狭い島に、逃げ道はなさそうだ」

既に、喜悦の域に入り込んでいる瞬には、氷河の声が、遠くで響く木霊に聞こえる。

「だいいち、逃げたら、代わりの者が犠牲になるらしい。それは、おまえには耐えられないだろう」

もしかしたら、それは、とても深刻で重い意味を持つ言葉なのかもしれないが、今の瞬には、氷河の声は愛撫にしかならない。
言葉の意味よりも声の響きが、瞬の思考よりも瞬の感性を、全身を総毛立たせるほどに刺激するのだ。

「となれば、こうするしかない」

それはどういう意味なのかと尋ねる意思を形作ることができずにいる間に、瞬は氷河に圧倒されるような力で貫かれていた。


その瞬間が、瞬は好きだった。
その瞬間から始まる忘我の時には、本当にこのまま死んでしまっても構わないとさえ思う。


目を閉じていても、氷河の表情がわかる。
飢えた野獣のような目をした氷河を受けとめると、獣はやがて瞬の中に取り込まれ、瞬に変えられて、攻撃性を失い、恍惚とした表情になっていくのだ。
獣を安らげさせているという満足感に浸っているうちに、氷河の獣性が自分に移り、今度は瞬が獣になって、もっと力を、もっと熱情を、もっと愛をと、身体が求め始めるのだ。

氷河を求める気持ちは思考だけでなく、身体から溢れ出て声になる。
「もっと、もっと、もっと」
――と。

瞬の言葉は、再び氷河に獣性を運び、そうして瞬はその言葉を後悔するほどの激しさに、再びさらされることになるのだった。 

氷河の熱と愛と力と情と欲と、それら全てのものが混然となって瞬の身体に染み渡り、溢れ、それは瞬の内部と表層とを伝い、撫で、やがて激しい逆波になって、瞬を翻弄する激流に変化する。

そんなふうに、互いに自分を与え合い、ぶつけ合い、狂ったように互いの核を交感し尽くして、その行為は終わるのである。


しかし、その夜は、いつもの“終わり”は訪れなかった。

瞬が満たされ尽くしたのを見てとってなお、氷河は重ねて瞬に挑んできた。
氷河に繰り返し攻めたてられて、身体のみならず瞬の意識と神経が麻痺しかけ、それが与え合う行為から一方的に攻めるだけの行為になってしまっても、氷河はそれをやめようとはしなかった。






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