最愛の一人息子のお相手として、マーマは瞬ちゃんにとても満足していました。
可愛い瞬ちゃんと毎日一緒に暮らせるようになったら、どんなにいいだろうと思いました。

マーマは瞬ちゃんに、
「じゃあ、マーマはそろそろ晩ご飯の支度をするわね。氷河、お手伝いしてちょうだい」
とか何とか理由をつけて、無愛想で不器用な一人息子を廊下に連れ出し、今夜の手筈の確認です。

「氷河、お部屋のお掃除はした?」
無愛想で不器用だけれど、そのへんだけはマーマの仕込みでしっかり者のロシアのお友達は、マーマにこっくりと頷きました。

「じゃあ、マーマは、後でお花を飾っておくわね」
マーマはそう言うと、愛する息子の両肩をがしっ☆と掴みました。
「いいこと。こういうことは、最初の夜が肝心なのよ。ベッドに入ったらね、パパがいなくて寂しいとか、知らない国で心細いとか、そういうことを瞬ちゃんに言うの。瞬ちゃんは、きっとそういうのに弱いはずだわ。きっと、氷河のために泣いてくれるわ」

「……俺は、瞬を泣かせたくない」
無愛想で不器用なロシアのお友達は、でも、男一匹ガキ大将。
同情なんかで、瞬ちゃんの心を射止めようなどとは思っていませんでした。

でも、そこは百戦錬磨の(?)マーマです。
「もちろん、すぐに慰めてあげるのよ。ロシアでは、大好きな友達とは、しっかり抱き合ってキスするんだって言って、キスしてあげるの」
「♪」
マーマのアドバイスを聞いて、ロシアのお友達はとても嬉しくなりました。

けれど、マーマは、ちゃんとした大人ですから、若さに任せた暴走の危険も知っていました。
「でも、今夜はほっぺまでよ」
「…………」
マーマのアドバイスに、ロシアのお友達は今度はちょっと不満顔です。

「そんな顔してもだめ。こういうことには順序があるの。瞬ちゃんはまだ小学校の2年生なのよ。ちゃんとしたキスは、明日の夜まで我慢しなさい!」
マーマは大人ですから、マーマの言うことは正しいのです。
明日なら――いいんですよね、きっと。


けれど、大人の分別は、若さゆえにほとばしる情熱の嵐を押しとどめることはできないのです。
ロシアのお友達は、ぼそっと、
「キャンプ場で、瞬のテントに潜り込んで、唇にちゅうした」
と、マーマに事後報告。

「え?」
「瞬は夢だと思ってるみたいだけど」
「まあぁぁぁぁぁ!」
マーマは、ロシアのお友達の言葉にびっくり仰天です。
びっくりしながらも、マーマは、いつの間にか、大人になりかけているロシアのお友達に感動してしまっていたのでした。

「さ…さすがはマーマの子だけあるわ! 教えられなくても、ちゃんと自分で考えて行動できているのねっ! 偉いわ、氷河! じゃあ、その調子で今夜も頑張るのよっ!」

マーマの後押しがあれば、百人力。
ロシアのお友達は、決意に満ちた表情で、マーマにこくりと頷きました。

マーマも、一人息子の成長に満足そうです。
「あ、氷河、わかってるとは思うけど、ぱんつは新しいのに替えるのよ!」
「準備してある」
そんな大事なことで、ロシアのお友達にぬかりのあろうはずがありません。


マーマは、息子の意欲的なのにとても満足して、そのまま晩ご飯を作るために、キッチンに入って行ったのでした。






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