「いつかはこんな日が来るんじゃないかと思っていたわ……」 「…………」 ロシアのお友達は今日も泣き言は言いません。 けれど、ロシアのお友達が、そこのケだけは死守したいと願っていることを、マーマには苦しいほどに理解していました。 けれど。 それなのに、マーマは、その言葉を告げないわけにはいかなかったのです。 「氷河、瞬ちゃんを愛しているわね?」 マーマは今更何を言っているのだろう――? そう思いつつ、ロシアのお友達はこくりと頷きました。 「瞬ちゃんに心配をかけないためになら、何でもできるわね?」 「…………」 2分間悩んでから、ロシアのお友達は、固い決意の表情でこくり。 マーマは、愛に命を懸ける覚悟の我が子に、感動の涙涙また涙です。 「偉いわ、氷河。じゃあ、これ、マーマから、プレゼントよ」 そう言って、マーマは、今日電気屋さんで買ってきたばかりの無駄毛処理のための道具をロシアのお友達に手渡しました。 そしてマーマは、とても苦しげな瞳で、とても悲しげな眼差しで、ロシアのお友達に言ったのです。 「氷河はこれから毎朝、必ず瞬ちゃんよりも20分早起きして、その毛を処理しなさい。瞬ちゃんに心配をかけないようにするためにはそれしかないわ」 マーマに手渡されたものをじっと見詰め、硬い表情でロシアのお友達はこくりと頷きました。 「これは、寒い冬の日の朝にも、暁を覚えない春の朝にも、寝不足になりがちな熱帯夜の翌朝にも、氷河がおとなになって、瞬ちゃんとむにゃむにゃして、いつまでも一緒に眠っていたい朝にも、一生……一生続けなければならない辛い務めよ。でも……でも、氷河、頑張るのよ! 瞬ちゃんの……瞬ちゃんのためなんだから……!」 最愛の我が子が一生背負い続ける愛の試練。 その試練に雄々しく立ち向かおうとする我が子の強さと、強さ故の哀しさ。 マーマは、悲しみのあまり、レースのハンカチで顔を覆ってしまいました。 |